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『あっちの方』
4月25日の夕方、共同通信の配信記事で『震災「東北だったから良かった」 復興相が発言』が流れました。今村雅弘前復興大臣が、自民党二階派のパーティーで、「(東日本大震災は)死者が1万5893、行方不明者2585、計1万8478人。この方が一瞬にして命を失ったわけで。社会資本の毀損も、色んな勘定の仕方があるが、25兆円という数字もある。これはまだ東北で、あっちの方だったから良かった。これがもっと首都圏に近かったりすると、莫大なですね、甚大な被害があったと思う(朝日新聞より)」と発言したことを報じたものです。これをきっかけに各紙、及び各メディアは一斉に今村前復興大臣への批判がされると同時に、官邸が更迭に動いたという報道もされました。
わたしは、このニュースの第一報を見たときに「今回の発言は、福島県の地元紙も大々的に、それこそ一面で記事を出すだろう」と思いました。なぜなら、今回は『あっちの方』という東北全体を指しての発言であり、前回の『自己責任』のように、『自主避難者』の『自己責任』といった、個別の人たちに対してのものではなかったからです。
国、福島県の立場は、子ども・被災者支援法の持つ理念からは離れて、『自主避難者』への支援を積極的にしない、というものです。その本音を今村雅弘前復興大臣は口にしてしまったのですから、急ぎ国は「被災者を傷つけ申し訳ない」と陳謝の意を表明しました。ただし、その時点で今村前復興大臣を更迭するような対応はしませんでした。福島県も国の意向を組んでの『自主避難者』への支援縮小ですから、今村前復興大臣へ辞意と求めるようなことはしません。そして、県内地元紙も福島県の広報的な報道をしますので、大々的なバッシングをすることもありませんでした。
しかし、『あっちの方』は東北全体を指す言葉ですから、それこそ、『死の街』のときの鉢呂元経産大臣のように福島を侮辱しているとして大臣叩きができます。わたしが第一報を見たときの予想どおり、ネット上でも、『あっちの方』発言で今村前復興大臣を批判、非難する声があふれ、多くの人が反応しました。結果的に、この発言で今村前復興大臣は辞任(実質的な更迭)することになりましたが、わたしは最初から違和感がありました。それは、『自己責任』発言のときには、人々がここまでの反応をしなかったからです。
福島県内に限定した話で言えば、『自主避難者』はマイノリティーな存在であり、国と福島県の方向性に背く存在です。その人たちの尊厳を傷つける言葉に対して、発言者たる復興大臣への批判が、福島県内で盛り上がるのは難しいことです。それは、権力者への批判というような世論が成立するためには、マスコミの過剰とも言える取り上げがない限りは有りえないからです。
福島民友4月26日の紙面では、1面、2面、3面及び、23面と大盤振る舞いといった感じで記事を展開しています。前日のうちに今村前復興大臣の辞任が決まったこともあり、わたしの予想以上に紙面を割いて今村氏を含めた安倍内閣への批判を展開しています。しかし、4月5日から25日までは共同通信の配信記事を載せるに留まっており、そこまでの福島民友の姿勢との差に違和感も覚えます。
福島県の立場としては、4月4日の『自己責任』発言のときはマスコミに復興大臣を叩くお墨付きを出さない。しかし、25日の、『あっちの方』という地域を指す言葉ならば、「東北という地域を差別する意識がある」として大いに叩いてほしい。今、流行の言葉で言えば『忖度』と言っていいかもしれませんが、報が官の意を汲んでいる。そういったことへの違和感を、この25日から26日にかけての報道に感じました。
(あべひろみ)
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